光る生物の応用研究最前線 : 第3回 化学者にとっての、はかない生物の光 ―ホタルイカの生物発光―

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寺西克倫

「ものおもへば沢の蛍もわが身より あくがれいづる魂かとぞみる」-和泉式部-

平安時代の歌人・和泉式部は、恋に悩み京都の貴船川にきて「はかないホタルの光は、自分の魂が体から抜けでているようでございます」と歌っている。

幻想的にほんのりと点滅し最後は消えてしまうホタルの光は、もの寂しい光として日本人には感じられるのであろう。科学的な観点からホタルをみても、雌雄の交尾のための合図として使われる光は、ホタルの最期を意味し、はかなく悲しい光なのかもしれない。生物の発光を科学する者は、おそらくはこのような感情に浸ることは無いであろう。特に私のように、「どのような化学的機構で光をつくりだすのか」を探求する者にとっては、分子構造や化学反応式が先に頭に出てきてしまう。ここでは、ホタルイカのはかない生物発光を科学してみたい。