NBRP紹介 : ニホンザル ―脳研究を支えるリソース―

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泰羅雅登

ニホンザル、アカゲザル、カニクイザルなどのマカク属のサルは、手術を必要とする研究に用いられる実験動物の中で最もヒトに近縁な動物であり、医学研究に必須とされてきた。神経科学の領域に限っていえば、欧米では主として研究用に繁殖、飼育されたアカゲザルが使用されてきたが、日本では、脳研究が盛んになった1960年以降、主としてニホンザルが使用されてきた。これはニホンザルが研究用、とくに高次脳機能の研究に適した実験動物であるという理由と、日本が先進国の中で唯一野生のマカク属のサルが生息している国であることによる。

これまで用いられていたニホンザルは、農作物への被害を防ぐために有害鳥獣駆除された野生の個体や、動物園あるいは野猿公園での過剰繁殖の結果、余剰となった個体がほとんどであった。しかし、このようなサルを使用することに動物愛護を訴える団体や、フィールドで野生ニホンザルの生態を研究する研究者が、研究用への転用はニホンザルの乱獲につながり生態系を乱すとの理由で強く反対を訴えていた。このような状況下で、環境省が捕獲動物の学術研究利用を「野生鳥獣の保護管理に関する学術研究、環境教育」などに限定しようとする方向性を打出した。また、一部の動物取扱い業者での不正が発覚したことで、一時は研究用ニホンザルの供給がきわめて不安定な状況になった。

日本の優れた脳研究を維持するためには、安定した供給が不可欠であり、計画的な繁殖、供給のシステムを整備する必要がある。また、B ウイルスに代表される人畜共通感染症に対する安全意識の高まりや、年齢、生育環境が明らかな研究用動物を使いたいという要望の増加もあり、繁殖センターを設置しようという気運が高まった。これを受けて、2001年に日本生理学会、日本神経科学学会、日本霊長類学会が、文部科学省、日本学術会議、総合科学技術会議などに、研究用ニホンザルの計画的な繁殖、供給システムの整備を求めて要望書を提出した。実はこのような繁殖センター設置の動きはこれが初めてではなく、1940 年代にも同じような試みはされたが実現しなかった。

2002 年に、国家的な研究開発課題について、産学官の最も能力の高い研究機関を結集し、総合力を発揮できる体制を作ろうとする「新世紀重点研究創生プラン(RR2002)」が文部科学省により始まった。その中に、国がとくに重要と認めたライフサイエンス研究に用いられるバイオリソース(実験動植物、細胞、DNAなどの遺伝子材料)の体系的な収集、保存、提供体制を整備することを目的とした「ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)」(http://www.nbrp.jp/)が組まれ、ニホンザルもこのリソースの1 つとして取上げられることになった(図1)。