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河野友宏 哺乳類が次世代を誕生させるためには、卵子と精子の半数体ゲノムセットを持つ2倍体の受精卵になることが不可欠である。 至極当然のことのようであるが、「なぜ両者のゲノムが必要なのか?」と自問してみると答えを出すことは難しい。実は、哺乳類の精子(父)ゲノムと卵子(母)ゲノムは、それぞれ異なる遺伝子修飾を受けて、一部の遺伝子の発現が父母ゲノム間で大きく異なっていることが明らかとなった。これらのメンデルの法則に従わない遺伝子群は「インプリント遺伝子」と呼ばれ、その結果父母ゲノム間には決定的な機能的差異が生じる。 筆者らのグループでは、雌の生殖細胞を操作して、インプリント遺伝子の発現を卵子(母)型から精子(父)型にスイッチさせる方法を確立し、母性ゲノムのみからなるマウス個体(二母性マウスと呼ぶ)の作出に成功した。本稿では、二母性マウスの誕生までの軌跡、ならびに生殖細胞のエピジェネティクスと個体発生との関係を紹介する。
河野友宏
哺乳類が次世代を誕生させるためには、卵子と精子の半数体ゲノムセットを持つ2倍体の受精卵になることが不可欠である。
至極当然のことのようであるが、「なぜ両者のゲノムが必要なのか?」と自問してみると答えを出すことは難しい。実は、哺乳類の精子(父)ゲノムと卵子(母)ゲノムは、それぞれ異なる遺伝子修飾を受けて、一部の遺伝子の発現が父母ゲノム間で大きく異なっていることが明らかとなった。これらのメンデルの法則に従わない遺伝子群は「インプリント遺伝子」と呼ばれ、その結果父母ゲノム間には決定的な機能的差異が生じる。
筆者らのグループでは、雌の生殖細胞を操作して、インプリント遺伝子の発現を卵子(母)型から精子(父)型にスイッチさせる方法を確立し、母性ゲノムのみからなるマウス個体(二母性マウスと呼ぶ)の作出に成功した。本稿では、二母性マウスの誕生までの軌跡、ならびに生殖細胞のエピジェネティクスと個体発生との関係を紹介する。