DNAメチル化と遺伝子発現制御のしくみを探る

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太田亨,新川詔夫

DNA塩基の化学的修飾は、進化の上で、種によって異なることがあるだけでなく、有害な場合と有用な場合とがある。アルキル化剤(アルキル基と呼ばれる分子をDNAに付着させ、DNAを結合させてコピーができないようにするもの)によるO6-メチルグアニン(O6-meG)やグアニン残基のN7同士の結合などは、有害で遺伝子の傷の原因となる。一方、DNAのメチル化は、有用なDNA化学的修飾の代表であり、エピジェネティック機構の基盤の1つである。

真正細菌、古細菌、真核細胞などにおけるアデニンN6のメチル化や、シトシンN4またはC5のメチル化が知られているが、脊椎動物でみられる一般的なDNAメチル化は、CpG配列(シトシン塩基の次にグアニン塩基が続く配列)上のシトシン塩基5位C5のメチル基(-CH3)付加である。

DNAの塩基は、二重らせんの内側に向いているが、メチル基は、内側に向いたシトシン残基に結合した小さな分子である。DNA複製時には、UHRF1タンパク質は、シトシン上の分子マーク(標識)であるメチル基を正確に認識し、メチル基を二重らせんの外側に引きだし、次いで、DNAメチル化(メチル基転移)酵素Dnmt1が、鋳型DNA鎖のCpG配列上のシトシン残基にメチル基が結合していると、新生DNAのCpG配列にもメチル基を付加するのである。植物においても、Dnmt1と進化上比較的保存された同様の酵素MET1によってメチル化が維持されている。他方、メチル化の新規確立には、マウスではDnmt3aとDnmt3bが関与している。

大腸菌などの真正細菌では、メチル化が新生DNAの複製ミス修復における元の鋳型のマークとなり、また、ウイルスDNAの侵入時には宿主ゲノムDNAと区別するためのマークとなる。真核細胞では、CpG配列上のシトシンC5のメチル化がゲノム全体にわたってみられ、植物ではCpNpG配列のシトシンC5メチル化もみつかっている。シトシンC5のメチル化は、細胞分裂後の次世代細胞へその情報が伝達できるという意味において、一種の遺伝情報であり、比喩的に第5の塩基とも称される所以である。

本稿ではDNAのメチル化の本質的な意義、ヒストンコードとのかかわり、遺伝子発現制御などについて概説する。