クモの毒を科学する

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池田博明

日本には人間に危害を及ぼす「毒グモ」は生息しなかったのだが、1995年に事情が変わった。オーストラリア由来のセアカゴケグモ(Latrodectus hasseltii)(図1)が大阪府や三重県に侵入したことが確認されたのである。ゴケグモ類は有名な毒グモで、1956年にセアカゴケグモの抗血清が開発される以前には死亡事故も起きていた。地中海沿岸のジュウサンボシゴケグモは「タランテラ伝説」のもととなったクモとして知られている。

大阪府では、セアカゴケグモは公園や墓地の側溝、関西空港の照明灯などに住みつき、発見のたびに大規模な駆除処理をしているにもかかわらず、次第に近畿・四国・九州地方にその分布域を拡大している。熱帯に分布するハイイロゴケグモ(Latrodectus geometricus)もお台場や横浜、沖縄など港湾地域で確認されて、いまやゴケグモは日本のクモ図鑑に載る種になった。

セアカゴケグモの毒注入量は少なく、毒性も弱く咬傷例もほとんどないことから、関西での騒動は終息したが、外国との交流が増えた現代では外国から新たな毒グモが侵入する機会がないとはいえない。ただし、クモがヒトを咬むのは体をつかまれた時で、素手で払ったりしなければ事故に遭う可能性は少ない。厄介なことに、毒グモに咬まれた時には、自分を咬んだクモを持参しなければ、どの抗血清を用いればよいかなどが確定できないため、治療を受けることができない。また、ゴケグモ毒抗血清はウマ血清なので、投与の際にはアナフィラキシー反応に注意が必要である。