生命科学の進展に寄せて : 自由な発想と独立心が新たな地平を拓く

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御子柴克彦

脳には、外部からの情報を柔軟に取り入れることができるという他の臓器にはないユニークな点がある。脳があるからこそ、我々は異なる個体とのコミュニケーションができる。光を視覚で、音を聴覚で、匂いを嗅覚で、味を味覚で、というように、さまざまな情報受容装置を張り巡らせることにより、外界の情報を集め、それを処理し、言葉や筋肉を使った行動というかたちで出力する。脳によるコミュニケーション能力は、社会、文化の形成といった人間活動の根幹を成すものである。また、心、精神の活動とも脳は大きく連関する。脳科学は、生命科学の一分野であると同時に、全体を包括するものでもあり、さらには、社会や文化をも含めた、人間を理解する総合科学であるといえる。

ユニークな点をもつ脳も、他の臓器と同様に、体の恒常性を維持するための臓器として発達してきたものであり、その面では、他の臓器と同じである。各々の臓器について理解するためには、DNA、RNA、タンパク質といった発生・分化の階層性の中で、各臓器がどのようなメカニズムで特異性を出しているのかを知ることが重要である。それゆえ、脳を知るためには、他の臓器の働きを知る必要があり、逆に、他の臓器を理解するためにも、脳の働きを知る必要があるといえる。さらには、ある部分だけを知るというだけでは、本当の理解は得られず、全体のしくみとしての理解が必要ともなる。そういう意味では、どの分野の研究であろうと、総合科学的な認識が必要なのである。