生命は地下で生まれた ―「太古の海は生命の母」の呪縛を解く―

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中沢弘基

生命はほんとうに水中で発生したのか?

A. I. オパーリンが生命の発生に至る化学進化のモデルを提案し、S. L.ミラーが巧みな実験系で、“古代大気”から有機分子が容易に生成することを証明して以来、タンパク質や核酸の非生物的合成が生命起源の研究の中心となった。研究のほとんどは暗黙のうちに、太古の海で有機分子が進化したであろう、と水溶液中の化学反応を想定して行われている。原生代(25〜5億年前)の、生物が爆発的に増殖した海と同じ海が、生命起源の場であろうとア・プリオリに想像するのは世界の常識である。

しかし、その“常識”の根拠を問われると確たる答えはない。もちろん、生命の維持にとって水の存在は不可欠である。しかし、だからといって、生命発生以前のすべての化学反応が、同じ水の中で起こったとする根拠は何もないし、むしろ有機分子の生成や重合や組織化など、質の異る反応が、同じ穏やかな水の中で起こる合理的理由は考え難い。大量の水の中では、アミノ酸など有機分子が重合してタンパク質になることも、そのタンパク質が単独で水中に存在し続けることも、熱力学的には不都合である。高温の熱水であればなおさらである。アミノ酸や核酸塩基はもとより、たとえタンパク質や触媒機能のあるRNAがあったとしても、水の中で生命が自然に発生すると考えるのは、地球外の天体に水があれば即生物が居るかも知れないと想像するのと同程度に、安易に過ぎるであろう。それら巨大分子が単独で水中にあれば、エントロピー最大化という自然現象の鉄則の中で、結局は加水分解してしまうはずである。

本稿では、「太古の海は生命の母」とするア・プリオリな仮定によらず、20世紀末に確立した新しい地球観に基づいて、なぜ有機分子や生物には進化という現象があるのかを考察し、その結果導かれた「生命地下発生説」を紹介する。紙数が限られるので考察の詳細や論拠などは拙著を参照されたい。