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久原孝俊 カ(蚊)が多くの感染症を人間に媒介することはよく知られている。たとえば、わが国において は、コガタアカイエカが日本脳炎を媒介する。日本においては、ワクチン接種によって、日本脳炎を発症する患者は激減したが(年間数人)、アジア地域においては、南アジア、東南アジアを中心に、現在でも、年間1万人以上の患者が発生している。また、海外において は、ハマダラカがマラリアを媒介し、熱帯、亜熱帯地域を中心に、年間3億〜5億人の人々が感染し、死者数は100万〜150万人にものぼると報告されている。マラリアの罹患者の大部分はサハラ(砂漠)の南側のアフリカ各地における5歳未満の小児である。さらにネッタイシ マカは、デング(英語では「デンギ」(dengue)と発音される)熱を媒介する。デング熱は、弛張熱* 1を特徴とする感染症である。初感染における致命率は低いものの、再感染においては、大量の出血によるショック症候群をひき起こし、致命率も大きく上昇する(3〜 6%)。デング熱の発生件数は、南アジア、東南アジアを中心に、年間約1億人である。現在のところ、マラリアおよびデング熱に対する有効なワクチンは開発されていない。その他にも、カが媒介する感染症として、ウエストナイル脳炎、セントルイス脳炎、マレーバレー脳炎などがよく知られている。 カが媒介するこれらの感染症を予防するためには、当然、カを撲滅することが有効である。これまでは、カを撲滅するために、おもに殺虫剤などが使用されてきた。Nature online(2011年8月24日号)およびNature(2011年8月25日号)には、ボルバキアという細菌を用いて、カの体内におけるデングウイルスの増殖を抑える興味深い方法に関するニュース記事および論文が掲載されているので、今回はこれらの論文を読んでみた。
久原孝俊
カ(蚊)が多くの感染症を人間に媒介することはよく知られている。たとえば、わが国において
は、コガタアカイエカが日本脳炎を媒介する。日本においては、ワクチン接種によって、日本脳炎を発症する患者は激減したが(年間数人)、アジア地域においては、南アジア、東南アジアを中心に、現在でも、年間1万人以上の患者が発生している。また、海外において
は、ハマダラカがマラリアを媒介し、熱帯、亜熱帯地域を中心に、年間3億〜5億人の人々が感染し、死者数は100万〜150万人にものぼると報告されている。マラリアの罹患者の大部分はサハラ(砂漠)の南側のアフリカ各地における5歳未満の小児である。さらにネッタイシ
マカは、デング(英語では「デンギ」(dengue)と発音される)熱を媒介する。デング熱は、弛張熱* 1を特徴とする感染症である。初感染における致命率は低いものの、再感染においては、大量の出血によるショック症候群をひき起こし、致命率も大きく上昇する(3〜 6%)。デング熱の発生件数は、南アジア、東南アジアを中心に、年間約1億人である。現在のところ、マラリアおよびデング熱に対する有効なワクチンは開発されていない。その他にも、カが媒介する感染症として、ウエストナイル脳炎、セントルイス脳炎、マレーバレー脳炎などがよく知られている。
カが媒介するこれらの感染症を予防するためには、当然、カを撲滅することが有効である。これまでは、カを撲滅するために、おもに殺虫剤などが使用されてきた。Nature online(2011年8月24日号)およびNature(2011年8月25日号)には、ボルバキアという細菌を用いて、カの体内におけるデングウイルスの増殖を抑える興味深い方法に関するニュース記事および論文が掲載されているので、今回はこれらの論文を読んでみた。