科学コミュニケーションの課題

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西川伸一

政権交代に新な時代の可能性を垣間見たわが国は、尖閣列島問題、北方領土問題と矢継ぎ早に起こる一種旧式の領土問題と直面し、この新たな時代が自信喪失と孤立の時代の到来だったのではという恐怖に立ちすくんでいた。この逼塞状況を打開するために何が可能か? わが国には軍備増強という選択肢はないだろう。EUのように近隣諸国との共同体創出という選択肢も考えられるが、明らかに準備不足だ。とすると、結局聞こえてくる声は、「科学技術立国」「イノベーション」による国力増強であり、さらに「医療・健康」という生命科学領域での研究開発の必要性だ。国力だけでなく、わが国からノーベル賞受賞者が続出し、山中博士のiPSが世界の注目を集めるというニュースを聞けば、わが国は捨てたものではないと心が晴れる。しかし本当に、科学技術が市民社会の基礎として認知されているのか? そんなさなか、国難ともいうべき東日本大震災がわが国を襲った。そしてたたみかけるように、科学のシンボルともいうべき福島原発のレベル7 の大事故。これまで、核被害者であっても加害者にはならないというわが国の根幹は失われ、また全世界が大きな心配を寄せるほど、日本の対応能力のなさが際立ってしまった。そして、テレビをはじめマスメディアでは、普通なら大活躍する、政治や経済の評論家の出る幕がないほど、科学者が登場し、日本の能力について肯定・否定、公衆の前で持論が展開され続けている。