命って何? 〜哲学のまなざし〜 : 第2回 心という謎

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三浦洋

「命とは何か」という問題を考えるとき、<物>と考えるか、<事>と考えるかが大きな分かれ目になることは前回述べた。<物>派と<事>派が対峙するのは、実は現代に限ったことではなく、古来、哲学の世界では一般的であった。とくに古代ギリシャ哲学の黎明期には、命を血液や心臓と同一視する<物>派が有力だったようである。なるほど、血液を失えば動物は命を失い、心臓が止まれば命はなくなる。したがって、命を血液や心臓と同じ<物>と見る考え方は、現実の経験に支えられており、理屈としても一定の有効性を持っている。

ここで注目されるのが、欧米の言語では「心臓」と「心」が同じ単語だという点である。ドイツ語のHerz、フランス語のcoeur、ポーランド語のserceを見ればわかるように、インド・ヨーロッパ語族の中心的位置を占めるゲルマン語、ロマンス語、スラブ語においては1つの単語が「心臓」と「心」の意味を併せ持つ。つまり、「命」の座である心臓は、「心」の座でもあるというわけだ。では、心臓を仲立ちに「命」と「心」は合一するのだろうか。