スフィンクスの謎に魅せられて ―私のスフィンゴ脂質研究: 「スフィンゴ脂質ものがたり」への序章―

加算ポイント:3pt

商品コード: adma0258

¥ 315 税込

関連カテゴリ

  1. 生命科学

商品について

五十嵐靖之

エジプトのギザにあって、人類史上最も神秘に満ちた建造物の1 つ、スフィンクス(タイトル写真)にちなんで命名された私たちの身体の構成成分分子が存在する。スフィンゴシンと、それを分子内に含有するスフィンゴ脂質と呼ばれる一群の分子である。

19世紀の半ば、ヒトの脳から抽出され、頭(Head)が水に溶け、しっぽ(Tail)が油に溶ける両親媒性の不思議な脳物質に対して、神経化学の開祖と呼ばれるドイツのツュディクムによって、頭がヒトで、胴体がライオンというスフィンクスにちなみ、スフィンクスの脂質、すなわち、「スフィンゴシン」と名づけられたのである。リン脂質であるスフィンゴミエリン、糖脂質であるセレブロシドなどスフィンゴシンを含む脂質は、その名称からもわかるように、脳や神経細胞に多く存在する。以来150年間、世界中の研究者が、スフィンクスの謎を解くべく、スフィンゴ脂質の機能の解明に取り組んできたが、現在になっても、たとえば脳組織でこれらスフィンゴ脂質はどのような働きをしているのか、他の組織や細胞の生命活動になぜ必要なのかが解明されたわけではない。機能の多くは、スフィンクスがそうであるように、依然謎に包まれたままである。

今から20年前に、それまで細胞膜のリン脂質の研究者であった筆者も、スフィンゴ脂質の研究に遭遇し、謎解きに挑戦することになり、あっという間に20年の歳月が流れてしまった。本稿では、私自身の研究を振り返りながら、スフィンゴ脂質研究の現状と研究の面白さ、将来への展望などを書いてみたい。筆者が尊敬する山川民夫先生の名著『糖脂質物語』の向こうを張っていつか書いてみたいと思っている、『スフィンゴ脂質ものがたり』の序章としての意味を持つことになろう。