ヒトの心の発達とその精神病理の理解を目指して : 第3回 脳の形態から統合失調症を明らかにする

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鈴木道雄

-統合失調症とは-

統合失調症は、思春期から成年早期に好発し、約120人に1人が罹患する精神疾患である(生涯発病率は約0.85%)。厚生労働省平成14年患者調査によると、日本における患者数は約73万4千人、入院患者は約20万人である。臨床症状は、幻覚、妄想、自我障害などの陽性症状と、感情鈍麻、意欲減退、社会的引きこもりなどの陰性症状が並存することが特徴である。また近年では、記憶、注意、実行機能や社会的認知などの認知機能に軽度の障害が認められ、予後を左右する重要な因子と考えられている。

統合失調症の発症を説明するモデルとしては、脆弱性-ストレスモデル、すなわち脆弱性をもった個体に、さまざまなストレスが作用して特徴的な症状が出現する、という考えが広く受け入れられている。このモデルが包含する意味として重要なことは、脆弱性をもつ個体であっても発症しない場合があること、またストレスをうまくコントロールすれば、発症や再発を防ぐことができるであろうということである。すなわち、脆弱性イコール疾患ではなく、脆弱性をもった個体において、ストレスの関与によって脳機能に変調が生じ、特有の症状を呈している状態が統合失調症ということになる。この点は、疾患概念についての誤解や偏見を避けるために、強調しておく必要がある。かつて精神分裂病とよばれていたのが、2002年に統合失調症と呼称変更されたことの背景には、このような疾患概念についての理解の進展がある。関心のある方は、日本精神神経学会のホームページを参照していただきたい(http://www.jspn.or.jp/05schizophrenia/schizophrenia00.html)。

しかしながら、統合失調症の病因はいまだに明らかではない。脳病態仮説として神経発達障害仮説が受け入れられつつあり、脳画像解析、神経伝達機能解析、分子生物学的手法による研究などが進展しているが、脆弱性の本態や発症にかかわる脳機構は充分に解明されてはいない。また、抗精神病薬による薬物療法や心理社会療法の進歩により、回復する患者が多くなっているものの、症状の持続や再燃に苦しみ、社会的機能やQOLの低下を余儀なくされる患者が存在することも事実である。統合失調症の病因を明らかにし、有効な治療法を確立することは、なお精神医学における最も重要な課題の1つである。