母体へのダイオキシン曝露が新生児に影響をもたらすメカニズム

加算ポイント:3pt

商品コード: adma0178

¥ 315 税込

関連カテゴリ

  1. 生命科学

商品について

西村典子

甲状腺は、人体で最大の内分泌腺であり、甲状軟骨のすぐ下の左右両側および前面に位置する蝶形の赤褐色した器官である。甲状腺ホルモンにはサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類がある。その血中濃度は視床下部・脳下垂体前葉・甲状腺間で機能している負のフィードバック機構で調節されている(図1)。このバランスが崩壊するとクレチン病やパセドー病などを発症する。甲状腺ホルモンは、多くの基本的な生理現象に関与しているが、とくに胎児期や新生児期の脳の発達や発育に不可欠である。その異常は機能的にも形態的にも非可逆的変化をもたらす。甲状腺は、ダイオキシン類の標的器官の1つである。

疫学調査から、ダイオキシン類排泄の最大の経路である母乳がダイオキシンにより汚染されていることがわかっている。母親がひとりの乳児を授乳するとその体内蓄積量の約半分が排泄されとの計算もある。わが国の母乳中のダイオキシン濃度は、1990年代の調査と比べると2004年度においては半減している調査結果が出されている。母乳栄養の新生児では確かに1日耐容摂取量を超過して摂取しているが、人の一生のうちで限定的な期間であることから健康影響の心配はないとされている。母乳栄養には免疫学的効果、栄養学的利点、母親と乳児間の精神的・心理的つながりを通じての情緒感の醸成など多くの利点があり、人工乳より母乳育児が推奨される所以である。しかしながら、胎児期や乳児期など発育が活発な時期がダイオキシンの毒性に最も感受性が高いことも事実である。母乳を唯一の栄養源とする新生児におけるダイオキシンのリスク評価する必要性が当然発生する。我々はダイオキシンのリスク評価に関する研究を行っている。今回、その研究の一環として新生児のダイオキシン曝露により甲状腺ホルモン代謝に及ぼす影響を動物実験や細胞レベルで解析した成果を概略することにした。