ウナギの大回遊 ―謎はどこまで解き明かされたか?―

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塚本 勝巳

洋生物の回遊など、動物の「旅」(Migration)は生物界に普遍的に見られる生命現象である。我々の研究室もさまざまな海洋生物の回遊現象を研究している。「生き物はなぜ旅をするのか?」これを解き明かすのが研究の最終目的である。生物の「旅」の理由は、「繁殖のため」「成長のため」「最適な環境を求めて」など、さまざまにいわれている。

しかし、これらの理由は旅の一面を捉えたに過ぎず、その生物の生活史全体を考えたときには、すべての生き物に共通した旅の理由があるに違いない。回遊という海洋生物全般に広く見られる基本的生命現象の共通原理を、さまざまな生物の回遊研究から抽出するのが、海洋生命科学の大きなテーマの1つである。

これまでに、アユ、ハゼ、サクラマス、ウミガメなど、さまざまな対象生物を扱ってきたが、なかでもウナギはひときわ手強い研究対象であった。それは、ウナギの産卵場が陸から遠く離れた外洋にあるためであり、その産卵生態や初期生活史が謎に包まれているからである。したがって、河川に産卵場があるアユやサクラマスなどに比べ、ウナギ研究でなにがしかの結果を出そうと思うと、予想外に時間がかかってしまう。また、技術的には、外洋で調査研究できる船という特別大がかりな研究設備を使わなければ、現場に出向くことさえできない点も、なかなか思うように研究が進まなかった原因でもあった。

しかし、ついに2005年6月7日、学術研究船「白鳳丸」(JAMSTEC)はマリアナ沖スルガ海山付近で、眼も口もできていないニホンウナギAnguilla japonicaの孵化仔魚を多数発見した。世界初、ウナギの産卵現場をピンポイントで特定した瞬間であった。この発見は、30年も継続された長い研究の最終ゴールとして、テレビ、新聞、雑誌に大きく報道された。しかし、これは単に産卵場の位置が明らかになったに過ぎない。これは研究の出発点であり、これからが本当の研究の始まりである。

産卵水深は? ペア産卵か集団か? 親ウナギの回遊ルートは?そもそもウナギはなぜ何千キロも離れた産卵場まで回遊しなくてはならないのか? 興味は尽きない。本稿では、近年急速に進展したウナギの生態研究を振り返り、今後の研究展開の方向を探る。