双極性障害における神経生物学的研究

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加藤忠史

双極性障害の治療には気分安定薬が用いられ、なかでもリチウムはもっとも確立した治療薬である。その他、バルプロ酸、カルバマゼピンなどが、気分安定薬として広く用いられる。また、クエチアピン、オランザピンなどの非定型抗精神病薬の有効性も報告されている。

しかしながら、第一選択薬であるリチウムは副作用が強いため、服薬中断に至ることも少なくない。また、これらの気分安定薬を併用しても、病相が完全にコントロールできない患者も少なくなく、とくにうつ病相には有効な薬剤が少ないのが現状である。

うつ病は、社会生活の障害をきたす最大の要因となっている疾患である。しかし、その治療法は未だ確立されておらず、既存の薬剤に反応しない難治性の患者が多い。さらに、抗うつ薬服用後に、焦燥感や衝動性が悪化する事例が少なくないことが社会問題になっている。これは、うつ病患者のなかに含まれる潜在的な双極性障害患者、すなわち双極スペクトラムである者が、抗うつ薬で躁転などの悪化をきたすためであることが指摘され、現在ではすべての抗うつ薬に、躁うつ病患者に対しては慎重に投与すべきであると明記されている。現実の臨床においては、こうした症例では、最初から抗うつ薬でなく気分安定薬を用いる場合も多い。

リチウムが単純なイオンであるために、構造を変化させて類似薬を作ることができなかったことに加え、確立した双極性障害の動物モデルがなかったことから、新たな気分安定薬の開発は、他疾患の治療薬の適応拡大を除けば、世界的にほとんど行われていない。

このように、双極性障害を早期に診断する方法の開発や、副作用の少ない気分安定薬の開発などが急務である。そして、診断法や治療法の開発のためには、何よりも双極性障害の病因を解明することが必要である。