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萩森健二 現在の日本社会では家庭内飼育動物を、ペットという認識からコンパオンアニマル(伴侶動物)、つまり家族の一員という認識に変わりつつある。その背景には、日本社会の成熟という基盤に、少子高齢化や核家族化という社会環境が加えられたことがある。 人間とコンパニオンアニマルの絆のことは、一般に、ヒューマンアニマルボンドという。私たちコンパニオンアニマルにかかわる獣医師は、このヒューマンアニマルボンドを守るために存在すると言っても過言ではない。Bestの治療選択をして、絆もしっかり守る。しかし、現実にはこれがなかなか難しい。 例えば、がんにかかった高齢の犬に、摘出手術を行ったとしよう。手術のときには全身麻酔を施すので、体力のない高齢犬には、麻酔によるショック死の危険が伴う。抗がん剤治療で進行を一時的に食い止められたとしても、副作用がある場合は、犬だけでなく、看病する家族も辛い思いを味わってしまう。治療によって、そのような結果を招いてしまったのでは、ヒューマンアニマルボンドを守ることにはならない。 そこで筆者の場合は、まず、飼い主さんの思いや“患者”のふだんの様子などを、じっくりと時間をかけて聞くようにしている。とくに、がんの場合、飼い主さんの多くは、病名を聞いただけで頭の中がまっ白になり、こちらの説明を咀嚼する余裕を失ってしまう。そのような状態で治療方針を決めてしまうと、必ず後悔が残る。また、家族間で治療方法をめぐって意見が異なることも多く、1人の意見だけで治療をはじめてしまうと、後々、家庭内のもめ事に発展する。 こうしたことを少しでも防ぐには、やはり時間をかけて話を聞き、必要とあれば何度でも説明の場を設け、家族が納得したうえで治療を行っていくしかない。根気の要る仕事だが、人間と意思疎通をはかれない “当事者”にとってのBestを探り、ヒューマンアニマルボンドを守るためには欠かせない仕事なのである。 前置きが少々長くなってしまったが、連載初回の今回は、いざというときのための心構えについて、筆者の経験からお伝えしたい。
萩森健二
現在の日本社会では家庭内飼育動物を、ペットという認識からコンパオンアニマル(伴侶動物)、つまり家族の一員という認識に変わりつつある。その背景には、日本社会の成熟という基盤に、少子高齢化や核家族化という社会環境が加えられたことがある。
人間とコンパニオンアニマルの絆のことは、一般に、ヒューマンアニマルボンドという。私たちコンパニオンアニマルにかかわる獣医師は、このヒューマンアニマルボンドを守るために存在すると言っても過言ではない。Bestの治療選択をして、絆もしっかり守る。しかし、現実にはこれがなかなか難しい。
例えば、がんにかかった高齢の犬に、摘出手術を行ったとしよう。手術のときには全身麻酔を施すので、体力のない高齢犬には、麻酔によるショック死の危険が伴う。抗がん剤治療で進行を一時的に食い止められたとしても、副作用がある場合は、犬だけでなく、看病する家族も辛い思いを味わってしまう。治療によって、そのような結果を招いてしまったのでは、ヒューマンアニマルボンドを守ることにはならない。
そこで筆者の場合は、まず、飼い主さんの思いや“患者”のふだんの様子などを、じっくりと時間をかけて聞くようにしている。とくに、がんの場合、飼い主さんの多くは、病名を聞いただけで頭の中がまっ白になり、こちらの説明を咀嚼する余裕を失ってしまう。そのような状態で治療方針を決めてしまうと、必ず後悔が残る。また、家族間で治療方法をめぐって意見が異なることも多く、1人の意見だけで治療をはじめてしまうと、後々、家庭内のもめ事に発展する。
こうしたことを少しでも防ぐには、やはり時間をかけて話を聞き、必要とあれば何度でも説明の場を設け、家族が納得したうえで治療を行っていくしかない。根気の要る仕事だが、人間と意思疎通をはかれない “当事者”にとってのBestを探り、ヒューマンアニマルボンドを守るためには欠かせない仕事なのである。
前置きが少々長くなってしまったが、連載初回の今回は、いざというときのための心構えについて、筆者の経験からお伝えしたい。