痛みの科学 ―ぶつけた向こう脛が痛むワケ―

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池田衡

生まれつき痛みを感じない先天性無痛症という極めて稀な病気がある。「この子はおかしいな?」と、わが子の異常に親が気づくのは、歯が生えはじめる生後6 か月目くらいからだという。歯が生えはじめると、赤ん坊はむずがゆさを覚えて歯茎をしきりに指や舌先でさわりたがる。ところが無痛症の子は、指をきつく噛んだり、血が出るまで舌を噛んだりする。

幼年期をむかえて活発に動きまわるようになると、さらにエスカレートして、沸騰した湯の入ったヤカンにさわって大やけどをしたり、高い所から飛び降りて骨折をくり返したりするという。長じては重度の関節変形などが原因で車椅子生活になることが多く、一般に短命であるといわれている。

この無痛症のケースでおわかりのとおり、人は痛みを感じることができないと、自らの身体にふりかかる危機を危機として認識できない。つまり、痛みを感じることで、周囲にある危険物の存在を知ったり、危険な行動を回避・防御したりすることができるようになる。また、心に受けた痛みによって、他人を思いやる気持ちも育まれる。こうして人は痛みから多くを学び、社会生活を無事に送る術を学習していくのである。